椎名もた君の話

 7月23日。椎名もた君(ぽわぽわP)が亡くなられた。

 最初に訃報を聞いた時、あまりに現実味がなくて「ほんとかよ!」と思っていたのだが、28日、お別れ会と称したお通夜で普通に眠っているかのような彼の顔を拝見させていただいて、その訃報が本当だったのだと知った。

 ”ぽわぽわP”という存在を知ったのは2010年ごろだったと記憶している。はじめて聴いたのは「ストロボハロー」という曲だ。

「すげぇクオリティの高い、独特な良い曲を作るボカロPがいるなぁ」と感じて興味を持ち、他の楽曲も聴いてみた。面白かった。結構キャリアを積んでる人なんだろうなと勝手に思っていた。だからぽわぽわPが、その頃まだ10代半ばだったと知った時はめちゃくちゃ驚いたものだ。

 それからしばらくして、彼はメジャーデビューし「夢のまにまに」というCDをリリースすることになった。

 当時、自分は週刊アスキー誌上で連載記事を書かせて頂いていたので、これ幸いとばかりにぽわぽわPこと椎名もたさんを招いて対談をお願いした。2012年3月12日のことだ。対談場所は飯田橋にある週刊アスキーの編集部。インタビューにもまだ不慣れだったらしく口数はあまり多くなかったが、言葉を選んで真剣に話をしてくれた。同席して頂いたレーベル”GINGA”の曽根原僚介さんと会話している様子はまるで兄弟のようで、見ていてとても面白かった。アスキー編集部に飾られていた馬鹿でかいダンボーを嬉しそうに写真に撮っていたことを覚えている。

 彼と対談した際、自分が作った「さよならアストロノーツ」という曲がとても好きだと言って頂いた。光栄だと思った。

 上記の言葉は、2008年の8月26日に「さよならアストロノーツ」を公開した際、動画の説明文に記したひとことだ。この言葉に助けられたということ話してくれた。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4423506

 どうやらこの曲を本当に気に入ってくれていたようで、椎名もた名義のミニアルバム「コケガネのうた」にさよならアストロノーツのカバーが収録されている。彼自身の声でUTAU音源をつくって歌わせるというコンセプチュアルで面白い仕上がりになっているので聴いてみてほしい。

 さよならアストロノーツは、当時の10代のリスナーに向けて作った”大人の歌”だった。自分が最初にこの曲を発表した時、ブログ上でこんな風に冗談めかして書いた。

ニコニコ動画のユーザー層は10代の方が多いそうなので、大人の歌を作ってみました。そういう方達が今から10年経って社会を担うようになった時に、この曲とオレの事を思い出してもらおう!というね。これを「小林オニキス10ヵ年計画」と呼びます。

 さよならアストロノーツを公開してから7年が過ぎ、もうすぐ8年目に突入しようとしている。小林オニキス10ヵ年計画とか適当に書いたしょうもない冗談を支持したいと言ってくれた彼が、まさか10年経つ前にいなくなるだなんて思いもしなかった。小林オニキス10ヵ年計画に加担するとかそんなことを言ってくれる人はもう他にいやしないと思うので、一体どうしてくれるんだ!とか思ったりします。本当に悲しい。

 仕方がないので今度は自分が、椎名もたという存在とその名曲の数々を、10年、20年、30年と遺していけるよう尽力していきたいと思います。今までありがとう。

どうか安らかに。